不合格/合格体験記 序章

一 序章

高2までの私は、まずもって勉強していなかった。記憶力だけは自信があったのと、それから生来の妙な真面目さで授業は割りと耳に入れていたので、学校の定期試験はいつも当日の朝の詰め込みと朧気な授業時の記憶だけで乗り越えて、成績も中の上くらいで、左うちわだった。特に、国語や社会科は自身の興味もあって、凡そ高得点を収めていた。

私の弱点はただ一つ、数学である。数学ばかりは中学の時分から度々赤点どころか青点をとっていた。ただし、中間と期末の二度チャンスはある。また、数学自体も二科目ある。そんなわけで、片方ずつで頑張ることにより、帳尻合わせに成功していたのである。以下に図解する。

そもそも、最終成績は中間試験と期末試験の評定の平均により算出されるのだが、ここで小数点以下は切り上げとなることが肝要である。さらに、そもそもの十段階の評定は、百点満点の試験から換算され、こちらは第二位が四捨五入される。たとえば、75~84点が評定「8」となるのだ。

ところで、数学が苦手であっても、頑張れば取れる得点が「65点」である。55点ならばもう少し簡単に取れる。一方、数学が苦手な人間は力を抜くと20点とか30点を平気で取ってしまう。以上の成績算出方法とこの経験則から、次のような成績獲得戦略が見えてくる。

 

 

中間試験

期末試験

終結

数学1

数学2

 

つまり、各試験で片方の教科に注力することで、最終的に赤点を回避するという戦略である。これは稀に失敗することもあったが、ともあれ成績表を小綺麗に保つには十分すぎる作戦だった。

こうして私の数学力はなおざりのまま、学年ばかりを重ねた結果、ついに受験という難関が眼前に迫ろうとしていたのだった。

 

これを読んでいる読者諸賢はどうぞ笑ってほしい。いや、笑わねばならぬ。何せ私は諸君の反面教師となるべく書いているのだ。私の場合こそ数学であったが、君たちはほかに国語とか英語とか、どの科目であれ、苦しんでいる要因は概ね同様の愚かな器用さにあるだろう。器用にも諦めて、あるいは「コスパ悪い」などと宣って、眼前の壁から逃れようとしたそのツケは、きっといつか汝が身に返ってくる。因果応報とは此の事である。まさに私は数学で痛い目を見たし、今は運動不足の報いを恐れて日々過ごしている。こう書いている今も私は何らの運動の輪に加わろうとはしなかったゆえ、いずれ報いを受けるに違いない。だから、そろそろ、重い腰を上げて運動そのものと対峙する時なのかもしれぬ。何れにせよ諸君は、まだ余裕があるのならば、逃げ続けている課題と須らく戦うべきである。

 

次回、塾通い篇です。